小川ちえ(店長)

保有資格
- NSCA-CSCS(Certified Strength and Conditioning Specialist)
- 普通救命資格
趣味
- 映画鑑賞(人生で500本くらい見ています)
- 運動!
- ランニング(フルマラソンサブ4目指してます)
- 26年秋、トライアスロン出場予定
- HYROX CHIBAに参加しました
仕事や家庭で期待に応えようとするほど、自分が何を感じ、何を望んでいるのかを考える時間は、少しずつ失われていきます。
小川トレーナーも、かつては「自分がしっかりしなければ」と仕事を抱え込み、何事にも100点を出そうとしていました。朝から晩まで働き続けた結果、心も身体も動かなくなり、休職を経験します。
人生の大きな決断に迷ったとき、支えになったのは、信頼する友人との対話でした。答えを決めてもらったわけではありません。それでも話すことで、「自分には味方がいる」「こう考えてもいい」と、自分の気持ちを少しずつ受け止められるようになりました。
だから小川トレーナーは、対話をトレーニングとは別のものだと考えていません。仕事の悩みが呼吸の浅さに表れることもあれば、自信のなさが身体の動きに表れることもあります。
言葉や表情、呼吸に耳を澄ませ、その日の心と身体に必要な時間を一緒につくる。
過去や未来ではなく、今の自分に戻るために。小川トレーナーが歩んできた道のりと、「人生を一緒に伴走したい」という思いを聞きました。
「普通」の人生を思い描いていた学生時代

――子どもの頃は、どのような性格でしたか?
とにかく活発な子どもでした。昼休みも放課後も、友達とドッジボールや鬼ごっこをして、ずっと動いていましたね。輪の中心にいることも多かったと思います。
小学生の頃から陸上クラブに入り、高校まで陸上を続けました。主な種目は走り幅跳びです。
最初は短距離をやっていたのですが、体育の授業で走り幅跳びをしたとき、経験者の子よりも遠くまで跳べたんです。「もしかしたら、自分にもできるかもしれない」と思ったことが始まりでした。
大学では、選手ではなくアメリカンフットボール部のトレーナーを務めました。それまでの私は、自分の身体に自分で責任を持つ“選手側”でした。だからこそ、誰かを支える側はどんな感覚なのだろうと興味を持ったんです。
――学生時代から、トレーナーを仕事にしようと考えていたのでしょうか?
いいえ。学生時代は、これといって明確な夢はありませんでした。
実家も母方の実家も建設関係の仕事をしていて、会社員として働く大人の姿が身近にあまりなかったんです。自分が知っている世界が少なくて、何をしたいのかもよく分かっていませんでした。
大学卒業後はスポーツアパレル企業に就職しました。当時は、デスクワークをして、数年後には結婚して子どもを産み、子育てをしながら生活のために働く。そんな一般的な人生を歩むのだろうと思っていました。
今は、当時想像していた人生とはかなり違います。でも、今の私は、お客さま一人ひとりと向き合いながらトレーナーとして働いています。「ただ、やりたいことをやっている」という感覚に近いかもしれません。
「私がしっかりしなければ」に追い込まれた会社員時代

――これまでに、「ちゃんとしなければ」と無理をしていた時期はありますか?
明確にあります。スポーツアパレル企業で働いていた頃です。
入社1年目は営業を担当し、2年目からはECサイトの在庫管理や販売計画に携わりました。コロナ禍で対面販売が難しくなり、ECサイトが大きな売上を担っていた時期です。
まだ社会人2、3年目でしたが、1週間で何億円もの売上をつくるセールの責任者を任されました。周囲は自分より経験のある人ばかり。それでも、プロジェクトを取りまとめ、予算を達成しなければなりません。
「自分が動かなければ」
「私がしっかりしなければ」
そう思い、ほとんどのことを一人で抱えていました。
朝から晩まで働き、会社に12時間ほどいる日もありました。帰宅した後も、夜中に起きて対応しなければならない業務がありました。
忙しい時期が重なり、最後には心も身体も動かなくなって、1カ月間休職しました。
何も考えたくない。何にも興味を持てない
――心身の余裕がなくなったとき、どのような変化がありましたか?
生活が明らかに荒れました。
普段は家でお酒を飲むタイプではなかったのに、お酒を飲むようになりました。食事もデリバリーでジャンキーなものばかり。運動する時間も気力もありませんでした。
最終的には、テレビを見ることさえできなくなりました。何にも興味や関心が湧かず、何もしたくない状態でした。
当時は、やるべきことをどうにか終わらせて、あとは何かを忘れるように過ごしていたのだと思います。自分を大切にするための時間ではなく、その瞬間をやり過ごすための時間になっていました。
休職を経験して気づいた、「力を抜く」という選択
――その経験は、今の小川さんにどのようにつながっていますか?
当時の私は、完璧主義というほどではないかもしれませんが、何事にも100点を出さなければいけないと思っていました。仕事を任されたら、一人で最後までやり切ろうとする。周囲に頼ることも、力を抜くこともできませんでした。
休職を経験して、「頑張りすぎることが、必ずしも良い結果につながるわけではない」と気づきました。もう少し力を抜いていい。周りを頼ってもいい。
そして、過去の後悔や未来の不安ばかりを考えるのではなく、「今」をちゃんと生きようと思うようになりました。過去は変えられませんし、未来の正解も分かりません。それなら、今やるべきことや、自分がやりたいと思うことに意識を向けよう。そう考えられるようになったことは、大きな変化でした。
対話に支えられ、トレーナーの道へ

――苦しい時期に、誰かに話を聴いてもらった経験はありますか?
たくさんあります。高校時代から仲の良い友人には、仕事のことも、結婚や人生についての悩みもよく話していました。
特に大きかったのは、これからの人生を選び直そうとしたときです。もし誰にも相談せず、自分一人だけで決めていたら、「本当にこれで良かったのかな」と、ずっと悩み続けていたと思います。
自分のことをよく知る友人から、別の視点や言葉をもらうことで、「自分には味方がいる」「こう考えてもいいんだ」と思うことができました。答えを出してもらったというより、話を聴いてもらうことで、自分の考えを受け止められるようになったのだと思います。
この経験は、今、お客さまとの対話を大切にする理由の一つになっています。
直接、人に良い影響を与えられる仕事がしたかった
――会社員からトレーナーへ転職したきっかけを教えてください。
大学時代に指導してくださったトレーナーの方への憧れが、心のどこかにずっと残っていました。
その方は豊富な実績を持つ方でしたが、いつも笑顔で、周囲にエネルギーを与えていました。その姿を見て、「私も、人をエンパワーメントできるような人になりたい」と感じたんです。
一方、ECサイトの仕事では、服を買ってくださるお客さまと直接会うことがありません。
「私は、誰に向けてこの仕事をしているのだろう」
そう感じるようになったとき、大学時代のトレーナーの姿や、社会人になってから通っていたクロスフィット、セミパーソナルジムの指導者たちを思い出しました。
直接人と関わり、その人に良い影響を届けられる仕事がしたい。以前から挑戦してみたかったトレーナーを、今こそやってみようと思いました。
教科書通りの指導から、その人を見る指導へ
――トレーナーになったばかりの頃は、どのような指導を心がけていましたか?
最初は知識も経験も浅かったため、「教科書通りにやらなければ」という気持ちが強かったです。
大学在学中にトレーナーの資格は取得していましたが、会社員の約3年間は専門知識から離れていました。自分自身が運動することはできても、人に教えるには、もう一度しっかり学び直す必要があると感じていました。今も、お客さまの身体をより良くするために、学び続けなければいけないと思っています。
ただ、経験を重ねる中で、知識やメニューを正しく提供するだけでは、その方にとっての良い時間にならないことにも気づきました。身体の状態だけではなく、仕事や生活、心の余裕まで含めてその方を見ることが、今は大切だと考えています。
頑張るより、整える

――「鍛える」だけではなく、心と身体を「整える」ことが必要だと感じた出来事はありますか?
以前担当していた、30代半ばの女性のお客さまとの出会いが印象に残っています。
学生時代は全国レベルで部活動に取り組んでいましたが、社会人になってからは、まったく運動をしていませんでした。仕事への意識がとても高く、「仕事で成功することが、自分自身の成功」と感じている方でした。その一方で、仕事以外の場面では、自分に自信を持てずにいたんです。
トレーニングを続ける中で、その方がこう話してくださいました。
「仕事以外でも、運動を通して自分を肯定できるんですね」
その言葉を聞いて、運動は体型や体力を変えるだけのものではないと、あらためて感じました。少し身体を動かし、「今日もできた」と感じる。その積み重ねが、自分を認めることにつながる場合があります。
ただ、疲れ切っている方に、いきなり「もっと頑張りましょう」と伝えても続きません。まずは心と身体の状態を受け止め、その人のペースに寄り添える場所が必要です。それが、dianestの「頑張るより、整える」という考え方にもつながっています。
まずは、「毎日頑張っていますね」と伝えたい
――dianestを訪れる方に、過去の自分が重なることはありますか?
あります。
一対一で楽しく話していても、ふとした言葉から、「少し自信をなくしているのかな」「仕事で悩んでいるのかな」「女性としてのライフステージに迷っているのかな」と感じることがあります。そんなとき、私自身にも同じようなタイミングがあったなと思います。
「もっと頑張らなければ」と自分を追い込んでいる方には、まず、その方がすでに頑張っていることを認めたいです。
「毎日、本当に頑張っていますね」
「子育て、いつもお疲れさまです」
そうお伝えすることを意識しています。
仕事や家庭を優先し、自分の時間を持てていない方にとって、dianestで過ごす時間が、少しでも気持ちを切り替えられる時間になってほしい。目標に向けた適切なアドバイスはしますが、何もかも我慢するのではなく、「週に一度は好きなものを楽しみましょう」とお話しすることもあります。
追い込み続けるのではなく、その方が日常に戻った後も続けられる方法を一緒に考えたいと思っています。
仕事の悩みも、身体から切り離さずに考える
――対話の時間では、身体以外にどのような話を聴いていますか?
私が担当するお客さまは、働いている女性が多いため、仕事の悩みを伺うことが多いですね。子育てやご家族についてお話しくださる方もいます。
仕事の悩みも、実は身体と無関係ではありません。例えば、人前で話す機会が多く、長時間緊張している方は、呼吸が浅く、回数が多くなっていることがあります。呼吸がうまくできない状態が続くと、首や肩が硬くなったり、自律神経の乱れにつながったりすることもあります。
そのため、仕事で精神的なストレスを抱えていることが分かれば、呼吸や肋骨周辺の動きを引き出すエクササイズを取り入れます。お話を聴くことで、その日に行うべきトレーニングが変わることもあります。
対話は、トレーニングとは別のものではありません。その方の今の状態を知り、より適切な時間をつくるために必要なものだと考えています。
できたことを伝え、変化を一緒に見つける
――「ここでは無理をしなくていい」と感じてもらうために、大切にしていることは何ですか?
お客さま自身に、自分を認めてほしいと思っています。
そのため、できたことはきちんと言葉にして褒めます。また、「以前と比べて、ここまで良くなりましたよ」と、変化を具体的にフィードバックすることも大切にしています。
ご本人にとっては小さな変化でも、以前の状態を知っている私から見ると、大きな前進であることがあります。自分一人では気づきにくい変化を一緒に見つけることで、「私は何もできていない」ではなく、「少しずつ進んでいる」と感じてもらえたらうれしいです。
「ジム」ではなく、隠れ家のような場所に
――「ここは自分のための場所だ」と感じてもらえたエピソードはありますか?
半年以上通ってくださっている、とても仕事が忙しいお客さまがいます。何週間もまとまった休みがないほどの激務を抱えている方です。
最初の頃は、ご自身の話をあまりされず、表情にも少し緊張が見られました。それが最近では、仕事の悩みや生活のこと、これから自分の人生をどうしていきたいかということまで話してくださるようになりました。ただ相談するというより、お互いに近況を報告するような感覚です。
その方は入会時に、「ジムはかなり敷居が高い」と話していました。それが後に、「今はカフェに行くくらいの感覚で来られています」と言ってくださったんです。
身体を鍛えなければならないから来るのではなく、少し気分を変えたい、自分を解放したいと思ったときに来られる。dianestがその方にとって、そのような場所になっているのなら、本当にうれしいです。
ノイズを減らし、自分の感覚に戻る空間
――dianestの空間に入ったとき、お客さまに何を感じてほしいですか?
「ここに来る自分が好き」と思ってほしいです。
運動をしている自分も含めて、自分をまるごと肯定してほしい。おしゃれで清潔感のある空間に来て、「今日の私、いいじゃん」と感じてもらえたらと思っています。
一般的なジムには、力強い色使いや、大きなマシン、ダンベルやバーベルが並ぶ、独特の緊張感があります。運動が好きな私でも、周囲の視線や雰囲気が気になり、自分の身体に集中できないことがあります。
dianestでは、光や香り、音、自然素材を通して、できるだけ余分なノイズを減らしています。心が少し落ち着き、無駄な思考が減ることで、自分の身体や気持ちに意識を向けやすくなる。
完全に一対一の空間だからこそ、他の人がいる場所では話しにくい身体の悩みや、心の悩みを話してくださる方もいます。お話を聴いた結果、予定していた内容ではなく、今のその方に必要なトレーニングへ変更することもあります。
dianestを隠れ家のような場所にしたいのは、誰かの目を気にせず、自分だけに集中する時間を持ってほしいからです。
あなたの人生を、一緒に歩く存在でありたい

――今振り返ると、つらかった経験にはどのような意味があったと思いますか?
今の自分が、もう少し生きやすくなるために必要な出来事だったと思います。そう思えるようになったのは、この1年くらいです。
dianestの立ち上げに関わり、eviGymとは異なるコンセプトをゼロからつくっていく中で、正解のないことに何度も向き合いました。手探りで進めるうちに、「もしかしたら、最初から正解なんてないのかもしれない」と感じるようになりました。
人生も同じです。何が正しいかは、そのときには分かりません。だからこそ、今できることをやる。今の自分が選びたいものを選ぶ。
もし人生をやり直せるボタンがあっても、私は押しません。これまでのことも、これから起きることも、自分がまだ想像できない未来も含めて、受け止めながら進んでいきたいと思っています。
――これから、どのようなトレーナーでありたいですか?
お客さまの人生を一緒に伴走するくらいの気持ちでいます。
キャリア、結婚、出産、子育て、介護、更年期。女性の人生には、さまざまな転機があります。その時々の悩みを、一人で抱え込まなくていい場所でありたいです。
話すだけで、少し気持ちが軽くなることもあります。身体を動かすことで、自分の感覚を取り戻せる日もあります。もちろん、トレーナーとして必要なことはきちんとお伝えします。ただ、一方的に正解を押しつけるのではなく、その方が自分で選び直せるように、一緒に考えていきたいです。
何を話せばいいか分からなくても大丈夫です。うまく言葉にできない日や、何も頑張れない日があっても構いません。dianestにいる時間だけは、誰かのためではなく、自分のために使ってほしい。
話す。呼吸する。身体を動かす。少し力を抜く。その時間を重ねることで、ここを出る頃に、ほんの少しでも「今の自分で大丈夫」と思っていただけたらうれしいです。
